プロユースの合宿免許 春休み

『モダンータイムス』という映画をごらんになった人はよくおわかりでしょうけれども、コンベアの上を部品が流れてきて、たとえばある人はネジをしめる、ある人は車輪をはめこむ、ある人はエンジンを取りつけるというふうに、それぞれの人がコンベアの脇でそれぞれの簡単な仕事をやっている。
一人がそれに細工をする次つぎに流れてくる車体に部品をとりつけると、次の人がそれにまた細工をするというわけで、最後には我われが見るような自動車がコンベアのはしから走りだすという大量生産のシステムが、コンベアシステムです。
二〇年で生産量が一〇〇倍にアメリカの乗用車の生産台数は、第一次世界大戦中の一九一六年、フォードが大量生産を始めてからわずか三年後に、四六万台という数字が一五二万台にはねあがり、そしてその一〇年後の一九二六年には三七八万台に達し、その三年後の一九二九年(昭和四年)には四四五万台になります。
あれよ、あれよといううちに、約二〇年あまりで乗用車の生産台数は四万三〇〇〇台から四四五万台、つまり一〇〇倍に生産量が増えています。
そうすると、何もかも一〇〇倍いることになります。
乗用車をつくっている材料も、当時はおそらく九〇%は鉄でしょう。
それだけ鉄が生産されなければなりませんし、ガラスもそうですし、ゴムもそうです。
ですから一九二〇年代の末には、当時の自動車はアメリカの鉄鋼の二〇%、板ガラスの七五%、工作機械の二五%、ゴムの八〇%を消費していたのです。
さらに自動車が走るにはガソリンや軽油がいります。
自動車は当時のアメリカの石油製品の九〇%を使いました。
この「石油製品」には、ガソリンのほかに灯油も重油も含まれているのですが、全部ひっくるめた石油製品の九〇%をガソリンとして消費したのです。
自動車は無数の働く職場をつくりだしたということは、石油工業がどんどん大きくなり、ガラス工業、鉄鋼業、工作機械工業などが、それぞれどんどん大きくなったということです。
そこでたくさんの人が働いていますから、その働いている人たちの職場が次つぎに拡大する。
アメリカじゅうに自動車関係の工場がニョキニョキできて、そこにたくさんの労働者が集まった。
そのうえに自動車にガソリンを入れる人たち、つまりガソリンスタンドの人たちがたくさんいる。
ガソリンスタンドがアメリカの道路の至るところにできる。
それからバスやトラックなどが、乗用車のほかに生産されていく。
一九二九年のバス、トラックの生産台数は八八万台もあったのです。
そのために、バスの運転手、トラックの運転手、あるいは積荷をする人、そういう人たちの職場がたくさんできる。
それから自動車が走っているうちに故障を起こして止まってはかないませんから、故障を起こさないようにいつも気をつけていることが先決です。
それはなかなか素人ではできない。
ですから、できるだけ定期的に整備工場に持って行って、よく点検してもらうことが必要です。
部品によっては、別に悪くなってはいないのだけれども、古い部品をはずして新しい部品に取りかえる。
そういう整備も必要です。
ですからその整備関係の職場がまたできる。
それに、自動車を売る人の職場もどんどんできてきます。
ですから全体として非常な経済発展が起こるわけですね。
つまり経済成長が自動車産業を軸として推進されたのです。
自動車をつくる場合に、大きな工場が自動車の部品全部を必ずしもつくるわけではない。
ハンドルにせよ歯車にせよ、シャフトにせよ、あとメーター類、バッテリー類、モーター、発電機、ポンプ、たくさんありますが、そういう部品はそれぞれの企業がそれぞれの工場でつくることになります。
いわば組み立て工場と部品工場と両方ができてくるのです。
この双方だけで当時約四〇万人の労働者の職場がつくりだされたのです。
アメリカ的生活様式が始まる第一次世界大戦後、いわゆる一九二〇年代のアメリカは空前の繁栄をとげた、とよく言われます。
ここで家庭電化とモータリゼーション、映画、レコード、ラジオ、短いスカート、脚線美、そうしたもので象徴されるいわゆるアメリカ的生活様式ができあがるわけですが、生活かおそろしく変わったと同時に、当然のことですが、産業が変わり、そして経済成長が推進されたのです。
見た目でも、いままでなかったところに自動車の販売店ができ、ガソリンスタンドができ、工場ができ、それから労働者はいまや自動車で工場に通いますから、工場の周りには大きな駐車場ができ、街の中心部にも空き地ができた。
ということは、つまりビルディングがこわされて平地にされて、そこに駐車場が続ぞくできるということを意味しています。
そして街の中は、かつての馬車にかわって、自動車でごったがえすようになる。
風景が変わり、人びとの生活スタイルが変わり、そして産業が変わり、経済が拡大されました。
鋼板を貼りあわせてボディーをつくるそれだけではなくて、たとえば鉄鋼のつくり方そのものが変わってきました。
自動車のボディーは薄い鋼板(薄板と言います)でつくられていますが、あれはボール紙で自動車の模型をつくるのと似たようなものです。
ボール紙のかわりに薄い鋼板がいろいろに、屋根の形とかドアの形やフェンダーの形のように切られ、曲げられて、その次にそれらを貼りあわせます。
ボール紙なら糊で貼りあわせることになりますが、鋼の場合は溶接して、貼りあわせます。
自動車の場合は鋼と鋼のはしを重ねあわせて、そこでいくつかのスポットで溶接します。
溶接というのは、溶接する個所に高熱を加え、そこに溶接棒の金属をとかし、その場所だけやわらかくなった鋼板と鋼板とのあいだに溶接棒の金属をとかしこんでピタッと貼りあわせてしまうことです。
とけた金属はちょうど糊のようなもので、糊が乾いて固まるように、とけた金属は冷えると固まって、ボディーがボール紙細工のようにつくられていくのです。
腕力と熟練で薄板を製造薄板をつくることは、鉄鋼の技術では非常にむずかしい技術です。
厚いものをつくるよりも薄いものをつくるほうがむずかしい。
それから、曲がったものをつくるよりも平らなものをつくるほうがむずかしい。
二〇世紀の初めには薄板をどうしてつくっていたかというと、まずとかした鋼を鋳型に入れて鋼塊にする。
その鋼の塊をまた熱して、分塊ロールにかけて延ばす。
それから切断する。
それで結局は重さ二五キログラム、長さが五〇センチぐらい、幅が二〇センチぐらい、厚さが三センチぐらいという切れ端にしてしまう。
この切れ端のことをシートバーと言いますが、そのシートバーをまた熱する。
そして労働者たちは、真っ赤に熱したシートバーを、箸ではさむようなしかけの長い長いハサミのようなものでつかみあげるのです。
しかも二枚いっしょにつかむ。
労働者が手で長いハサミのようなものを使ってつかむのです。
加熱炉の中から二枚いっしょに取り出すのですが、これは重さ五〇4口ぐらいになる。
だからものすごい腕力が必要です。
その五〇キログラムをロールとロールの間に突っこむ。
そうすると、かなり薄くなってロールの反対側にシートバーが薄くなり大きくなって出てくる。
そこにまた労働者がいて、それをまた長い長いハサミで受け止めて、そしてロールの上からポンと、シートバーをロールにはさんだ人のほうへ投げるのです。

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